ハーマン・デイリーの三原則とは?実例や図解を交えてわかりやすく解説!

ハーマン・デイリーの三原則とは?実例や図解を交えてわかりやすく解説!

はじめに

近年の急激な経済発展に伴い、私たちは多くの資源を消費し、たくさんの排出物も生み出してきました。

長期にわたるこのような活動の結果、地球温暖化をはじめとする様々な問題が発生しており、サステナブルな社会の実現が強く求められています。

この記事では、サステナブルな社会について考える際に重要となる、経済学者ハーマン・デイリーが提唱した「ハーマン・デイリーの三原則」について、具体例や図解を交えてやすく解説していきます。

 

目次
  1. ハーマン・デイリーの三原則とは?
  2. 第一原則:再生可能な資源の消費ペースは、その再生ペースを上回ってはならない
    1. 再生可能な資源とは?
    2. 再生ペースを超えた消費の弊害
    3. 再生ペースを考慮した消費活動の例
  3. 第二原則:再生不可能な資源の消費ペースは、サステナブルな代替資源が開発されるペースを上回ってはならない
    1. 再生不可能な資源とは?
    2. 開発ペースを超えた消費の弊害
    3. 開発ペースを考慮した消費活動の例
  4. 第三原則:汚染物質の排出量は、地球の自浄作用のペースを上回ってはならない
    1. 地球の自浄作用とは?
    2. 汚染物質の蓄積による環境問題
    3. 地球の浄化能力を考慮した消費活動の例
  5. ハーマン・デイリーの三原則の意義
    1. 持続可能な開発の概念成立に寄与
    2. エコロジカル・フットプリントとの関連
    3. サーキュラーエコノミーとの関連
    4. 個人の行動指針への応用
  6. おわりに

 

ハーマン・デイリーの三原則とは?

ハーマン・デイリーの三原則とは、アメリカの環境経済学者ハーマン・デイリーが1970年代に提唱した下記のような原則です。

 

  1. 再生可能な資源の消費ペースは、その再生ペースを上回ってはならない
  2. 再生不可能な資源の消費ペースは、サステナブルな代替資源が開発されるペースを上回ってはならない
  3. 汚染物質の排出量は、地球の 自浄作用のペースを上回ってはならない

 

つまり、資源消費並びにそれに伴う環境への影響は、地球が持つ許容量の範囲内に収めなければいけないということを述べている原則になります。

地球には、途方もなく長い時間をかけて貯蔵された資源や、環境それ自体に備わっている自浄作用があります。昔の人々は、これらの資源や作用とうまく付き合いながら生活してきました。

しかし、近年の工業化によって人間社会は大量の資源を消費し、地球の自浄作用を大きく超える汚染物質を出すようになりました。その結果、地球温暖化に端を発する様々な環境問題が起きています。

デイリーは、この問題に対処するためには「資源の消費ペースをその再生ペースや開発ペースに合わせ、かつ汚染物質の排出は地球の浄化能力の範囲内に抑えることが必要」だと考えました。

この考えを3つの原則として落とし込んだのが、「ハーマン・デイリーの三原則」です。

 

 

第一原則:再生可能な資源の消費ペースは、その再生ペースを上回ってはならない

第一の原則は、「再生可能な資源の消費ペースは、その再生ペースを上回ってはならない」です。

この原則を守ることで、私たちはサステナブルに地球が生み出す資源を消費し続けていくことができます。

ハーマン・デイリーの第一原則の図解

 

再生可能な資源とは?

再生可能な資源とは、一定の期間を経ることで自然に再生することができる資源のことを指します。

森林、水資源、土壌、魚類などが再生可能な資源の代表として挙げられるでしょう。 これらの資源は、適切に管理すれば、持続的に利用し続けることができます。

 

再生ペースを超えた消費の弊害

再生可能な資源でも、消費ペースが再生ペースを上回ると枯渇する危険性があります。

例えば、森林の伐採量がその再生ペースを超えると、資源の総量が減少していきます。

世界の森林面積は約40億haですが、1990年から2020年までの30年間で年平均約600万haが減少したと言われています。

この減少は主に商業生産のための土地利用転換が原因ですが、残された森林の劣化も大きな問題となっており、その主要因は木材の伐採です。

アフリカ・ラテンアメリカ・亜熱帯アジアで進行する森林劣化の約63%が木材伐採によると報告されており、私たちの消費活動が残された森林資源に大きな影響を与えていることがわかります。

 

再生ペースを考慮した消費活動の例

再生可能な資源は私たちの生活に欠かせませんが、その重要性ゆえに過剰に消費されてきました。

持続可能な社会を実現するためには、再生可能な資源を大切にし、その再生ペースに合わせて利用することが重要です。

サステナブルな森林資源の管理を認証するFSCマークは、その好例です。FSCの認証を受けた森林は、持続可能な資源利用が可能となるように管理されており、消費ペースが再生ペースを超えないように保証されています。

しかし、FSCのような取り組みはまだ世界中に広がっているわけではありません。地球温暖化などの影響で再生可能な資源の総量が減少してきていることからも、そうしたサステナブルな資源の利用を浸透させていくことが重要です。

 

 

第二原則:再生不可能な資源の消費ペースは、サステナブルな代替資源が開発されるペースを上回ってはならない

第二の原則は、「再生不可能な資源の消費ペースは、サステナブルな代替資源が開発されるペースを上回ってはならない」です。

この原則を守ることで、私たちは経済活動を継続しながら、持続可能な代替資源へスムーズに移行していくことが可能になります。 

ハーマン・デイリーの第二原則の図解

  

再生不可能な資源とは?

再生不可能な資源とは、一度消費してしまうと自然には再生することができない資源のことを指します。

石油、石炭、天然ガスなどの化石燃料や金属、レアメタルなどの鉱物資源がその代表例です。これらの資源は、地球の長い年月の中で生成されたものであり、私たち人間の時間スケールでは再生することができません。

 

開発ペースを超えた消費の弊害 

再生不可能な資源には、主にエネルギー供給に利用される化石燃料が含まれます。化石燃料は、現在の世界のエネルギー供給の大部分を占めています。

2023年のデータによると、世界のエネルギー消費に占める化石燃料の割合は82%であり、私たちの経済活動が化石燃料に大きく依存していることがわかります。

人間社会の大部分がこうした化石燃料に依存しているため、その消費ペースは非常に速く、石油は約54年、石炭は約139年で枯渇すると推定されています。

 

開発ペースを考慮した消費活動の例

再生不可能な資源が枯渇しないようにするためには、持続可能な代替資源の開発が不可欠です。

太陽光、風力、水力、地熱などの再生可能エネルギーは、CO2排出が少なく、環境に優しいエネルギー源として注目されています。

化石燃料に代わる持続可能なエネルギー技術の開発は世界中で盛んに進められており、2022年には世界の再生可能エネルギーへの投資額が4,990億ドル(約70兆円)にも達しました。

一方で、再生可能エネルギーへの巨額の投資は、私たちが再生不可能な化石燃料を大量に消費している現状を反映しているとも考えられます。

ハーマン・デイリーの第二原則が指摘しているように、私たちは化石燃料の消費ペースに遅れないよう、代替資源の開発を急速に進めていると言えます。

 

 

第三原則:汚染物質の排出量は、地球の自浄作用のペースを上回ってはならない

第三の原則は、「汚染物質の排出量は、地球の自浄作用のペースを上回ってはならない」です。

この原則を守ることで、私たちは一定の汚染物質を排出するような経済活動を、サステナブルに続けていくことができます。

ハーマン・デイリーの第三原則の図解

 

地球の自浄作用とは?

地球には、大気や水、土壌をに排出された有害物質を除去する自浄作用が備わっています。

例えば、植物は光合成により大気中のCO2を吸収し、酸素を放出することで、大気の構成成分を適切な状態に近づけることができます。

これらの自然の作用により、ある程度の汚染物質は非人工的な自然のプロセスを経ることで、環境中から除去することが可能です。

 

汚染物質の蓄積による環境問題

近年では、私たちの活動によって排出される汚染物質の量が地球の自浄作用のペースを超え、自然のプロセスだけではこれらを除去しきれなくなっています。

その結果、環境バランスが崩れ、様々な問題が発生しています。

例えば、2023年には世界のCO2総排出量が409億トンに達しました

この大量のCO2排出により、大気中のCO2濃度は急速に上昇しています。産業革命前は280ppmだった大気中のCO2濃度は、2020年頃には約400ppmに達しました

このCO2濃度は歴史的に最も高い水準であり、CO2を除去する地球の自浄作用が私たちの排出ペースに追いついていないことは明らかです。

 

地球の浄化能力を考慮した消費活動の例

汚染物質の排出量を削減するには、環境規制が重要な役割を果たします。各国政府は大気汚染物質の排出基準を設定し、企業に排出量の削減を義務付けています。

例えば、EUでは「欧州グリーンディール」という環境政策が推進されており、2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすることを目指しています。

EUのグリーンディール政策は、2030年までにCO2排出量を1990年比で55%削減するという野心的な目標の達成を目指す政策パッケージの一環として成立しました。EUではCO2だけではなく、他の様々な排出物に対する規制も実施されています。

今後、各国が排出量を見直し、EUのように積極的な削減に取り組むことで、地球の自浄作用のペース内に有害物質の排出量を抑えられる日がやってくるかもしれません。

 

 

ハーマン・デイリーの三原則の意義

この原則は1970年代に発表されて以来、サステナビリティに関連する概念の基礎となり、具体的な取り組みの指針として重要な役割を果たしています。

 

持続可能な開発の概念成立に寄与

ハーマン・デイリーの三原則は、持続可能な開発の概念の成立の大きく寄与しました。

1987年に国連の「環境と開発に関する世界委員会」が発表した報告書『Our Common Future(我ら共有の未来)』では、持続可能な開発を「将来の世代の欲求を満たしつつ、現在の世代の欲求も満足させるような開発」と定義しました。

この定義は、デイリーの三原則、すなわち資源の消費ペースを再生ペース以下に抑え、再生不可能な資源を再生可能な資源で代替し、汚染物質の排出を自浄作用の範囲内に留めるという考え方を反映しています。

デイリーの三原則は、2015年に国連が採択したSDGs(持続可能な開発目標)にも大きな影響を与えました。

SDGsは、貧困や飢餓の撲滅、気候変動対策、海洋資源の保全など、17の目標と169のターゲットから構成されています。これらの目標は、経済、社会、環境の三側面を統合的に捉え、持続可能な開発を実現することを目指しています。

例えば、SDGsのゴール12「つくる責任 つかう責任」は、サステナブルな生産と消費のパターンを確保することを目指しており、デイリーの三原則の考え方を反映しています。

 

 

エコロジカル・フットプリントとの関連

ハーマン・デイリーの三原則は、経済発展と環境保護のバランスを取る重要性を強調しています。従来の経済学では、経済成長が環境に与える影響は十分に考慮されていませんでした。

しかし、デイリーは三原則の提唱を通じて経済活動が地球の許容量内で行われるべきだと主張しています。この考え方は「エコロジカル・フットプリント」の概念にも反映されています。

エコロジカル・フットプリントとは、私たちの生活が地球にどれだけ影響を与えているかを「地球何個分の負荷を与えているのか」という単位で示す指標です。

現状では、もし世界の人が全て、今の日本と同じような生活をした場合は、地球2.8個分の自然資源が必要になると考えられており、少なくとも第一原則「再生可能な資源の消費ペースは、その再生ペースを上回ってはならない」に違反した状態になっていると言えるでしょう。

 

サーキュラーエコノミーとの関連

サーキュラーエコノミー(循環経済)の推進は、ハーマン・デイリーの三原則に沿った重要な取り組みです。

サーキュラーエコノミーは、資源を効率的に利用し、廃棄物を減らすことを目指す経済システムで、使い捨て経済とは対照的です。

使い捨て経済では、資源が採取され、製品が作られ、使用され、廃棄されますが、サーキュラーエコノミーでは、資源が可能な限り長く使用し、その価値を循環させることを目指しています。

こうした資源の利用方針は、第一原則「再生可能な資源の消費ペースは、その再生ペースを上回ってはならない」と密接に関連しています。

また、廃棄物の削減は第三原則「汚染物質の排出量は、地球の自浄作用を上回ってはならない」に密接に関連していると言えるでしょう。

 

個人の行動指針への応用

ハーマン・デイリーの三原則は持続可能な社会のための重要な指針であり、私たち個人の消費スタイルにも応用できます。

例えば、日常的な買い物で環境にやさしい製品を選ぶようなエシカル消費を実践することは、ハーマン・デイリーの三原則に則した消費スタイルです。

リサイクル素材を使用したパッケージや、再生可能エネルギーで製造された製品を選ぶことで、個人レベルでもデイリーの三原則を実践できます。

しかし、エシカルな製品を見つけ出し、その環境への影響を調べて購入することは、とても手間がかかります。

エシカルデータ検索サービス「Deeder」を活用すれば、誰でも簡単にエシカルな消費スタイルを実践できます。

幅広い価格帯の中から様々な条件で製品を検索できるので、自分の価値観にぴったりな製品を簡単に見つけることができます。

ぜひ「Deeder」を活用し、エシカルな消費スタイルを実践してみてください。

エシカル消費を推進するエシカルデータ検索サービスDeederのコンセプト画像

 

 

おわりに

この記事では、ハーマン・デイリーの三原則とそれが持つ意義について解説しました。 デイリーの三原則はサステナブルな社会の実現に向けた重要な指針であり、私たち個人の消費スタイルにも応用できます。

この記事が読者の皆様のお役に少しでも立てば幸いです。 最後までお読みくださり、ありがとうございました!

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