PFASとは?健康と環境への影響から規制動向や企業の取り組みまで解説!

PFASとは?健康と環境への影響から規制動向や企業の取り組みまで解説!

はじめに

私たちの日常生活に欠かせない製品のいくつかには、「PFAS(ペルフルオロアルキル化合物またはポリフルオロアルキル化合物)」と呼ばれる化学物質が使用されていることがあります。

PFASは、熱に強く、水や油などの液体をはじき、電気を通しにくいといった便利な特性を持ち、これまで広く活用されてきました。 

しかしSDGsの採択に伴い、エシカル消費などのサステナブルな消費スタイルが注目される中、PFASが健康や環境に与える悪影響が指摘され始めています。

この記事では、PFASの基礎知識、健康と環境への影響、国内外の規制動向、企業の取り組み事例などについて、詳しく解説します。

 

目次
  1. PFASの基礎知識
    1. PFASとは
    2. PFASの種類
    3. PFASの用途
  2. 懸念①:PFASの人体への悪影響
    1. 発がん性
    2. 免疫への悪影響
    3. 生殖機能への悪影響
  3. 懸念②:PFASの環境への悪影響
    1. PFASの半減期
    2. 水生生物への悪影響
    3. 陸上生物への悪影響
  4. PFASに関する規制動向
    1. 国際的な規制の動き
    2. 各国の規制状況
    3. 今後の規制強化の見通し
  5. 企業のPFAS対応事例
    1. パタゴニア : PFASフリーな製品の開発・導入
    2. クラリアント : 代替ソリューションの開発と導入
    3. IKEA : サプライチェーンにおけるトレーサビリティの強化
  6. 消費者としてできること
    1. PFAS含有製品の識別方法
    2. PFAS含有量の少ない製品を選択
  7. おわりに

 

PFASの基礎知識 

PFASとは

PFAS(ペルフルオロアルキル化合物またはポリフルオロアルキル化合物)は、炭素と水素の結合の一部または全部を炭素とフッ素の結合に置き換えた化合物の総称です。

PFASは1940年代頃に開発されて以来、その優れた特性から幅広使われてきました。しかし近年、PFASが健康や環境に与える悪影響が指摘され始め、その使用を制限する動きが広がっています。

米国ではPFASは総称して「Forever Chemicals」とも呼ばれています。この呼称は、PFASの大きな特性の一つである半減期の長さに由来しています。つまり、「一度環境や人体にPFASが残存してしまうと、非常に長い期間(Forever)にわたって残り続けてしまう」ことを表現しているのです。

 

PFASの種類

PFASは構造の違いにより、大きく2つに分類されます。

  • ペルフルオロアルキル化合物(PFAC)
    • 全ての炭素-水素結合がフッ素に置換されたもの
  • ポリフルオロアルキル化合物(PFAS)
    • 一部の炭素-水素結合がフッ素に置換されたもの

PFACの代表例として、PFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸)やPFOA(ペルフルオロオクタン酸)が知られています。

PFOSは、2009年に「POPs条約(残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約)」で規制対象に指定されました。日本もこの条約に従っており、2010年に「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」を改正し、PFOSの製造や製品への使用を禁止しました。

PFOAについても、2019年に同POPs条約で原則禁止とされたことを受け、日本でも2021年から製造や製品への使用が禁止されています。

上記では規制の対象となっている代表的なものを挙げましたが、PFASにはPFNA(ペルフルオロノナン酸)、PFDA(ペルフルオロデカン酸)など、数多くの種類が存在します。2024年時点では、そのすべてに使用規制がかけられているわけではないことは留意しておくべきでしょう。

 

PFASの用途

PFASは、その優れた特性から、さまざまな分野で幅広く使用されてきました。主な用途には下記のようなものがあります。

  • 食品包装材(耐油紙、ピザボックスなど)
    • PFASの撥油性を利用し、食品への油の染み込みを防ぐ
  • 撥水・撥油加工された衣類やカーペット
    • PFASの撥水・撥油性により、汚れや水を弾く
  • 非粘着性の調理器具(フライパン、ホットプレートなど)
    • PFASのコーティングで食材の焦げ付きを防止
  • 消火剤や防汚剤の原料
    • PFASの界面活性作用を利用
  • 化粧品やワックスなどのコーティング剤
    • PFASの撥水性や滑り性を活用

2017年に米国で行われたファストフードチェーン大手27社を対象にした調査では調査対象とした包材の3分の1からPFASが検出されました。

この調査からも分かるように、PFASは様々な用途において広く普及しています。それでは、このような便利な物質がどうして規制の対象になっているのでしょうか?

それは、PFASの持つ健康や環境への悪影響が徐々に明らかになってきたからです。

 

 

懸念①:PFASの人体への悪影響

PFASは、その残留性ゆえに、私たちの健康に悪影響を及ぼす可能性が指摘されています。PFASは生物の体内で分解されにくく、蓄積しやすい性質を持っており、特にPFOSやPFOAなどの長鎖PFASは、生体内での半減期が数年から数十年にもおよぶことが知られています。

一度体内に取り込まれたPFASが、長期間にわたって蓄積され続ける結果、健康被害につながるリスクが指摘されています。

 

発がん性

PFOA及びPFOSについて行われている様々な研究から、発がんリスクがある可能性が示唆されています。

米国オハイオ州とウエストバージニア州の工場付近及び飲料水汚染地域における研究では、1951年から診断日までの住民の血中PFOA濃度と、1996~2005年のがん罹患データを分析しました。

その結果、非ばく露地域と比較して、推定血清PFOA濃度が高い地域では、腎臓がんのリスクが約2倍に上昇することが明らかになりました。

 

免疫への悪影響

PFASへの曝露が、ワクチンの効果を減弱させるなど、免疫系に悪影響を及ぼす可能性も指摘されています。

フェロー諸島の子供を対象とした研究では、1997~2000年に生まれた587組の母子ペアを対象に、妊婦と子供の血中PFAS濃度と、子供の5歳及び7歳時の破傷風及びジフテリアの抗体価の関連を調査しました。

その結果、妊婦の血清PFOS濃度が2倍になると、子供の5歳時のジフテリア抗体濃度が39%低下していることがわかりました。

 

生殖機能への悪影響

PFASが生殖機能の発育に悪影響を及ぼす可能性が研究により示唆されています。

デンマークのオーフス大学の研究チームは、1988-1989年に設立された出生コホートの男性オフスプリング169名(19-21歳)を対象に、母体のPFOAとPFOS曝露が、息子の精液の質、精巣容積、生殖ホルモンレベルに与える影響を調査しました。

分析の結果、母親の血中PFOA濃度が高いほど、息子の精子濃度と総精子数が低下する傾向が見られました。

 

これらの研究結果は、PFASが人体に対して様々な悪影響を及ぼす可能性を示唆しています。

しかし、これらの疫学研究では交絡因子の影響を完全な排除が困難であるなど、様々な限界に直面しながら実施されたものであることには留意が必要です。

PFASの健康影響について確定的な結論を導き出すためには、さらなる研究の蓄積が必要と言えるでしょう。

 

 

懸念②:PFASの環境への悪影響

PFASは、その残留性ゆえに、自然環境に悪影響を及ぼす可能性も指摘されています。上述したように、PFASはその半減期の長さからアメリカでは「Forever Chemicals」とも呼ばれておいます。

一度外部環境に排出されたPFASが、非常に長い期間に渡り自然環境の中に残留し続けることによる、様々な環境被害のリスクが指摘されています。

 

PFASの半減期

これまで見てきたように、PFASは様々な用途で利用されており、その多くは最終的に自然環境へと排出されます。

PFASを利用した製品が埋立地やゴミ集積場などに残存することで、地表のみならず地下水や河川、海洋などの水環境まで汚染し、生態系に影響を与えると言われています。

PFASの種類や残存環境(大気中・水中・地中)によって半減期は異なりますが、自然なプロセスで生分解されるためには、一般的に数十年程度を要すると言われています。

  

水生生物への悪影響 

PFASは水溶性が高いため、水生生物に大きな影響をもたらしています。

2017年に日本で行われた調査において、北海道、愛知県の渥美半島、日間賀島、京都府、熊本県の5カ所のスーパーで購入した食用アサリを調べたところ、1kgあたり約190ng〜1700ngのPFASが検出されました。

2020年に厚生労働省が発表した「水道水に含まれるPFASの合算値の暫定目標値」は50 ng/Lと定められています。もちろん、水とアサリという異なる対象の単純な比較はできませんが、1,700ngという検出量は非常に高い数値であることがわかります。

このような状況を踏まえ、農林水産省は2024年3月に、国内で流通する食品のPFAS含有量を詳しく把握するための実態調査を行うことを表明しています

 

陸上生物への悪影響

PFASによる環境汚染は地球規模で広がっており、なんと北極圏の動物からもPFASが検出されています。

例えば、2000年代初頭の調査では、北極圏に生息するホッキョクグマから、中国のPFAS製造工場で働く人やその近くに住む人と同等の高濃度のPFOSが検出されました。

ホッキョクグマは、アザラシや魚類などの水生生物を主食としています。水溶性の高いPFASは多くの水生生物の体内に取り込まれているため、食物連鎖ピラミッドの最上位に位置するホッキョクグマの体内からは、生物濃縮の結果、非常に高い濃度でPFASが検出されたと言われています。

このことは、日常的に様々な水生生物を食べる私たち人間にとっても無関係ではありません。

 

 

PFASに関する規制動向

PFASの健康と環境へのリスクが明らかになるにつれ、国際社会ではPFASの使用を規制する動きが加速しています。

ここでは、PFASに関する国際的な規制の動向、主要国における規制の状況、そして今後の規制強化の見通しについて解説します。

 

国際的な規制の動き

PFASに関する国際的な規制の枠組みとして、「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs条約)」が重要な役割を果たしています。POPs条約は、残留性、生物蓄積性、毒性、長距離移動性を有する化学物質の製造と使用を制限・禁止することを目的とした国際条約です。

2009年にはPFOSが規制対象に追加され、製造と使用が原則禁止されました。

2019年には、PFOAとその関連物質が規制対象に追加され、ほぼ全ての用途で製造と使用が禁止されました。

さらに、2022年には、PFHxSについても規制対象に追加され、原則禁止の対象となっています。

このように、POPs条約では段階的にPFAS規制の対象物質を拡大してきています。こうした国際的な流れを踏まえて、各国においても個別で法整備や規制対応などの動きが活発になってきています。

 

各国の規制状況

アメリカ

アメリカでは、環境保護庁(EPA)が中心となってPFASの規制に取り組んでいます。

EPAは2021年に「PFAS戦略ロードマップ」を発表し、PFASの健康と環境への影響に対処するための包括的なアプローチを示しました。このロードマップでは、以下の3つの中心的な指針に焦点を当てています。

  • 研究
    • PFASへの曝露や毒性、人の健康と生態系への影響、最良の科学に基づく効果的な介入方法について理解を深めるための研究、開発、イノベーションに投資する。
  • 制限
    • PFASが人の健康と環境に悪影響を及ぼすレベルで大気、土地、水に入るのを積極的に防ぐための包括的なアプローチを追求する。
  • 浄化
    • 人の健康と生態系を保護するために、PFASによる汚染の浄化を拡大し、加速する。

EPAは、このロードマップに基づいて、PFASによる汚染から地域社会を守るための具体的な行動を取っていくことを表明しており、今後もアメリカは積極的にPFAS規制に動いていくと考えられます。

EU

EUでは、欧州委員会がPFASの規制をリードしており、2023年には「PFASを規制する提案」が公表されました。

提案では、1万種類以上のPFASについて、製造・上市・使用(輸入を含む)を制限することが示されました。対象となるのは、焦げ付き防止の調理器具やスキー用ワックス、化粧品、洗浄剤など、私たちの生活に身近な製品も含まれます。

規制が発効した場合、18カ月の移行期間の後、企業はPFASの使用を制限されることになります。

早ければ2025年中に規制が発効する可能性もあるとも見られており、EUに在籍する企業は早急な対応を求められています。

日本

環境省は、2023年に「PFAS に関する今後の対応の方向性」を公開しています。

この資料の中では、主に3つのポイントが重要です。

  1. PFOSとPFOAについては、製造輸入の禁止、廃棄物の適正処理、水環境の暫定目標値設定などの取り組みをさらに推進する。
  2. PFOSとPFOA以外のPFASについては、POPs条約で廃絶対象となっているPFHxSなどを優先的に規制し、その他の物質は当面対応すべき候補を選定して管理の在り方を検討する。
  3. PFASに関する科学的知見を集め、国内の汚染実態を把握するためのモニタリング調査を強化する。また、健康影響等に関する研究を進める。

この方向性を踏まえて、専門家会議は今後、これらの取り組みの進捗を確認し、必要な助言を行っていくとしています。

アメリカやEUの対応スタンスと比べると、日本はPFAS規制については消極的な立場と表現して差し支えないでしょう。

 

今後の規制強化の見通し

国際社会におけるPFAS規制は、今後ますます厳しくなることが予想されます。

この潮流に伴い、各国には更に踏み込んだ規制や具体的な取り組みが国際社会から求められるようになるでしょう。

PFASの規制強化は、これまでこの物質を活用してきた企業にとって大きな課題となります。次のセクションでは、先進企業のPFAS対応の取り組み事例について詳しく見ていきます。

 

 

企業のPFAS対応事例

PFASの規制強化を受けて、企業は自社製品からのPFAS排除や代替物質の開発、サプライチェーン管理の強化などに取り組んでいます。

ここでは、企業のPFAS対応の具体的な事例を見ていきましょう。

 

パタゴニア : PFASフリーな製品の開発・導入

PFASの危険性が明らかになるにつれ、一部の企業はPFASフリーな製品の導入を進めています。

アメリカの大手アウトドアブランド「パタゴニア」は、2025年までにすべてのDWR(耐久性撥水)メンブレンおよび加工をPFASを含む有機フッ素化合物を使用していない代替品に切り替えていくと宣言しています。

また自社だけでなく、サプライチェーン全体でPFASの排除に向けた取り組みを継続し、自社で検証した解決策を他の衣料品ブランドにも採用するよう働きかけているとも宣言しています。

 

クラリアント : 代替ソリューションの開発と導入

 スイスの化学メーカー「クラリアント」はPFASフリーな代替ソリューションの開発に取り組んでいます。

その高い技術力を活かして、従来素材同様に高い強度や耐熱性を持ちながらも、現行および予想される規制要件へ適合した素材の開発に成功し、展開を進めています。

PFASの規制が強まっていき、今後多くの企業が代替素材の確保に苦戦することが確実視されている中で、クラリアントのPFASフリーな素材は爆発的に広まる可能性があるでしょう。

クラリアントは技術的イノベーションを通して、よりサステナブルな産業構造を作り上げることに貢献しています。

 

IKEA : サプライチェーンにおけるトレーサビリティの強化

スウェーデンの家具量販企業「IKEA」は、PFASの排除に向けてサプライチェーンにおけるトレーサビリティ強化に取り組むと宣言しています。

IKEAは2009年からサプライチェーンにおけるPFASの段階的な廃止に取り組んでおいます。2016年にはテキスタイルからのPFAS廃止を完了したと報告している一方で、PFASが広く普及していることもあり、現段階ではサプライチェーンからは完全に取り除けていないことを認めています。

こうした困難に直面しながらも、IKEAは今後もPFASをサプライチェーンから排除していくことに注力し続けるとし、代替品などのソリューションを検討しながら段階的に取り組みを進めていくことを約束しています。

 

 

消費者としてできること

PFASの問題は、企業の取り組みだけでなく、消費者一人ひとりの意識と行動が重要です。

ここでは、消費者としてPFASの問題にどう向き合い、どのような行動ができるのかについて考えていきましょう。

 

PFAS含有製品の識別方法

消費者がPFASの問題に取り組むためには、まずPFAS含有製品を識別する方法を知ることが大切です。以下のようなポイントに注目しましょう。

  • 製品の表示や説明書をチェックする
    • 防水、撥水、撥油、non-stick、PFASなどの表記があれば、PFAS含有の可能性が高い。
  • メーカーの情報を確認する
    • 企業のウェブサイトや問い合わせ窓口で、製品のPFAS使用状況を確認する。
  • 信頼できる第三者機関の情報を参照する
    • 環境NGOなどが公開しているPFAS含有製品のリストを参考にする。

ただし、現状ではPFAS含有の有無を製品表示から判断することは難しい場合が多いのが現状です。より透明性の高い製品選択を目指して、私たち消費者が企業に対して情報開示を求めていくことも重要です。

 

PFAS含有量の少ない製品を選択

消費者は、PFAS排出量の少ない製品を選択することで、環境への負荷を減らすことができます。日常生活の中で、PFASを利用していない製品を意識的に選ぶことが、持続可能な社会の実現につながります。

PFASを含む製品を避けるために、消費者ができることの一つが「エシカル消費」です。エシカル消費とは、価格や機能性だけでなく、成分や環境・社会への影響も考慮して製品を選ぶことを指します。

「Deeder」は、製品のエシカルデータをAIでスコアリングし「見える化」されていて、誰でも簡単にエシカル消費を始められるサービスです。

現時点ではPFAS含有などのデータをは反映できていません。しかし、Deederのようなサービスが広まることで、企業からもエシカルな情報が開示されるようになれば、私たち消費者がより透明性高く製品を選択できるようになります。

「エシカル消費に興味はあるけど、なかなか一歩が踏み出せない」という方は、この機会にぜひDeederを使ってみてください。

エシカル消費推進サービスDeederのコンセプト画像
エシカルスコアの一例

 

 

おわりに

PFASはその有用性から幅広く使用されてきましたが、健康と環境への悪影響が徐々に明らかになってきました。

この問題に対処するには、国際的な規制強化と企業の積極的な取り組みが不可欠です。

同時に、私たち消費者一人ひとりがエシカルな消費スタイルをできる範囲で実践し、持続可能な製品を選ぶことも重要でしょう。

最後までお読みくださり、ありがとうございました!

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