はじめに
サーキュラーエコノミー(循環経済)というキーワードが、注目を集めています。
サーキュラーエコノミーとは、従来の「調達→製造→廃棄」という直線的な経済モデルから脱却し、価値を循環させることでサステナブルな社会の実現を目指す概念です。
この記事では、図解を交えながら簡単にサーキュラーエコノミーの定義について解説し、その後で取り組み事例や日常での実践方法について紹介します。
サーキュラーエコノミー(循環経済)とは?
サーキュラーエコノミーとは、資源の無駄を最小限に抑え、製品の価値を可能な限り長く保ちながら、サステナブルな経済システムを実現することを目指す概念です。
その基本原則は以下の3つです。
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廃棄物の発生を抑制する:製品設計の工夫やリサイクルの実施により、廃棄物の発生を最小限に抑える
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製品の価値を長く維持する:リユースやリペアなどを通して、製品を可能な限り長期間使用できるようにする
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環境システムを再生する:調達・製造プロセスを見直し、環境システムへの悪影響を抑えることでその再生を促す
これらの原則のうち、原則1と原則2は目的達成のための「手段」、原則3は「目的」そのものと捉えることができます。
サーキュラーエコノミーでは「廃棄量の削減と製品の長期使用という手段を通じて、環境システムの再生という目的が達成される」という関係性が成り立っていることが非常に重要です。
それでは、サーキュラーエコノミーを支える3つの原則について、より詳しく見ていきましょう。
原則①:廃棄物の発生を抑制する
サーキュラーエコノミーでは、製品設計の工夫やリサイクルを通して、廃棄物の発生を抑制することを目指します。
2019年時点で、世界全体で一年間に排出されるゴミの総量は約21億トンで、これはオリンピックサイズのプール約82万個分に相当します。
その総量の中でリサイクルされているのはわずか16%に過ぎず、かつゴミとして処理されているもののうち、46%がサステナブルでない方法で処理されていることが研究によって明らかになっています。
こうしたデータを見ると、ゴミとして排出された製品のリサイクル率を上げることで、最終的な廃棄物の総量を大幅に減らせる可能性があることがわかります。
そのためには、製品設計の段階から製品が将来的にリサイクルされることを考慮し、リサイクル可能な素材や構造を設計に組み込むことが求められています。
原則②:製品の価値を長く維持する
サーキュラーエコノミーでは、リユースやリペアなどを通して、製品の価値をできるだけ長く維持することを目指します。
大量生産・大量消費の時代にあって、多くの製品のライフサイクルは非常に短くなっています。
例えば衣類産業では、供給量が増加する一方で、衣服の価格は年々安くなっています。その一方で、国内人口が減少しているにも関わらず衣類の供給量は微増しています。
これらのデータから、安価な服を短いライフサイクルで多く購入し、多く廃棄する消費スタイルが定着している傾向が示唆されています。
そのような状況の中、これらの衣類が手放される際にはそのうち66%がゴミとして処分され、リユースされるのは19%に過ぎません。
このように製品のライフサイクルが短命化している状態では、大量生産・大量消費の消費スタイルから脱却することができません。
原則③:環境システムを再生する
サーキュラーエコノミーでは、製品の調達・製造プロセスを見直して、環境システムへの悪影響を抑えることでその再生を目指します。
「原則1:廃棄物の発生を抑制する」「原則2:製品の価値を長く維持する」では、製品の消費プロセスを見直していました。
それらに加えて、さらに調達プロセスや製造プロセスについても併せて見直すことで、製品の消費サイクルが環境に与える影響を最小限に抑えることができます。
製品の製造に多くのエネルギーが使用されることを考えると、エネルギー源を化石燃料から再生可能エネルギーに移行することで、CO2排出量削減へのインパクトは非常に大きくなるでしょう。
サステナブルな消費スタイルを確立するためには、製品のライフサイクルが環境に与える影響を最小限に抑えることが重要であり、そのためには環境負荷の大きい要因をそのサイクルから取り除くことが重要です。
サーキュラーエコノミーに関するEUの動向
EUは、サステナビリティの実現に向けて最も積極的に取り組んでいる地域の一つです。
ここでは、具体的な取り組みとしてEUのサーキュラーエコノミー関連取り組みの事例を2つ紹介します。
サーキュラーエコノミーパッケージ(2015年)
サーキュラーエコノミーパッケージは、2030年までの経済成長計画の中心となるもので、サーキュラーエコノミーへの移行を早めるための土台を作ることを目指しています。
注目すべきは、その行動目標が曖昧な表現や指針にとどまらず、定量的な数値として非常に高い水準を設定していることです。
例えば、同計画内での廃棄物に関連した廃棄物改正提案は下記のようなものです。
- 2030年までに都市廃棄物の65%をリサイクルする
- 2030年までに包装材廃棄物を75%リサイクルする
- 2030年までに埋め立て廃棄量を最大10%削減する
この取り組みを推進するために、欧州構造化基金(ESIF)から5.5億ユーロ、研究開発・イノベーション促進プログラム(Horizon 2020)からは6.5億ユーロもの資金が投入されました。
サーキュラーエコノミーアクションプラン(2020年)
サーキュラーエコノミーアクションプランは、2015年に承認された計画を更新する形で成立しました。
この計画の大きな特徴は、サステナブルな製品やサービスのデザインを法制化した点です。
つまり、EUではサーキュラーエコノミーの実現に向けた一部の取り組みが、「環境のためにやった方がいい」というNice要件ではなく、「やらないと法律違反になる」というMust要件になっています。
例えば、同計画内で提案された主要な規制項目は下記のようなものです。
- 長期間の使用・再利用・修理・リサイクルが容易な設計や短期間での劣化防止などの義務付け
- 売れ残り耐久財の廃棄を禁止
- 2005年に発効したエコデザイン指令では対象をエネルギー関連製品に限っていたが、これを他製品に拡大・強化
- 消費者に対して「修理する権利(Right to Repair (RtR))」を認め、修理や部品、耐久性に関する情報へのアクセス確保を要求
サーキュラーエコノミーに関する日本の動向
ここまで、EUにおけるサーキュラーエコノミー実現への取り組みを見てきました。
では、私たちの暮らす日本では、どのようにサーキュラーエコノミーの実現に向けて取り組んでいるのでしょうか。
3Rの取り組み
日本では、もともと3R(Reduce・Reuse・Recycle)の概念が長年にわたって浸透しており、資源の有効活用と廃棄物の削減に貢献してきました。
- Reduce:廃棄物の発生を抑制すること
- Reuse:使い終わった製品を廃棄せずに別のシーンで再使用すること
- Recycle:使用済みの資源を廃棄せずに再利用すること
特に、リサイクルについては容器包装リサイクル法などの法整備も進んでおり、私たち消費者の日常生活にも十分に浸透しています。
サーキュラーエコノミーとは異なり、日本の3Rは価値の循環よりも製品の廃棄時の取り扱いに主眼を置いていますが、両者の概念は類似していると言えるでしょう。
循環型社会形成推進基本計画
循環型社会形成推進基本計画は、現在までに第四次計画が発表されています。
先日、第五次計画の原案が公開され、2024年5月22日までパブリックコメントの受付が行われていました。
第四次計画では、循環型社会の全体像を把握し、その向上を図るための物質フロー指標や数値目標が設定されています。
- 資源生産性(GDP/天然資源など投入量):2026年度までに約49万円/トン(2000年度比約2倍)
- 入口側の循環利用率(循環利用量/(天然資源など投入量 + 循環利用量)):2026年度までに18%
- 出口側の循環利用率(循環利用量/廃棄物など発生量):2026年度までに47%(2000年度比約1.3倍)
- 最終処分量:2026年度までに1,300万トンまで削減(2000年度比77%減)
少し複雑な表現が並んでいますが、要するに「天然資源の利用量を減らしつつ、処分される製品量も削減しながらも、豊かさにつながる経済活動を営む」ことを規定している目標群と言えるでしょう。
プラスチック資源循環戦
循環型社会形成推進基本計画の他に日本が推進するサーキュラーエコノミーに関連する実行計画として、プラスチック資源循環戦略が挙げられます。
プラスチック資源循環戦略は、海洋プラスチックごみ問題、気候変動問題、諸外国の廃棄物輸入規制強化といった幅広い課題に対応するために策定された取り組みです。
この戦略では、3R+リニューアブルの基本原則と、6つのマイルストーンを目指すべき方向性として掲げています。
3R+Renewableの基本原則
- ワンウェイの容器包装・製品をはじめ、回避可能なプラスチックの使用を合理化し、無駄に使われる資源を徹底的に減らすとともに
- より持続可能性が高まることを前提に、プラスチック製容器包装・製品の原料を再生材や再生可能資源(紙、バイオマスプラスチック9等)に適切に切り替えた上で
- できる限り長期間、プラスチック製品を使用しつつ
- 使用後は、効果的・効率的なリサイクルシステムを通じて、持続可能な形で、徹底的に分別回収し、循環利用を図る
6つのマイルストーン
- 2030年までにワンウェイプラスチックを累積25%排出抑制
- 2025年までにリユース・リサイクル可能なデザインに
- 2030年までに容器包装の6割をリユース・リサイクル
- 2035年までに使用済プラスチックを100%リユース・リサイクル等により、有効利用
- 2030年までに再生利用を倍増
- 2030年までにバイオマスプラスチックを約200万トン導入
日常でのサーキュラーエコノミー実践方法
ここまで、国家によるサーキュラーエコノミー関連取り組み事例について紹介してきました。
もちろん、国のような大きな主体による法整備や規制などは、サーキュラーエコノミーを実現するうえで非常に重要です。
その一方で、私たち消費者も、ちょっとした工夫を自分の消費スタイルに取り入れることで、サーキュラーエコノミーを実践し、その実現に貢献することができます。
エシカル消費に取り組むことでサーキュラーエコノミーは実践できる
エシカル消費とは、製品の選択に際して価格や機能性といった従来の比較軸に加えて、その製品が持つ健康や環境、社会への影響も考慮に入れて製品の選択を行う消費スタイルのことを指します。
自分が無理せず気持ちよく取り組める範囲で、より環境負荷の低い製品や、より長く使える製品を選択するようなエシカル消費の実践することで、廃棄物の発生を抑制し、製品の価値を長く維持することにつながります。
これらのポイントは、まさにサーキュラーエコノミーの基本理念に沿ったものです。
エシカル消費の取り組み方
それでは、どのようにエシカル消費に取り組んでいけばいいのでしょうか?
エシカル消費を実践するには、まず「この製品は、具体的にどのようにエシカルなのか?」を判断することが必要です。
製品のエシカル情報は、製品の公式サイトやパッケージに記載されていることが多いですが、それらを都度確認して、自分で製品のエシカル性を判断するのは大変です。
さらに、エシカルな製品は身近で買える場所が限られていたり、価格が一般的な製品よりも高かったりすることもあります。
また、そもそも何から始めていけばいいのか分からない、という方も多いかもしれません。
エシカルデータ検索サービス「Deeder」のようなサービスを活用すれば、誰でも簡単にエシカル消費に取り組むことができます。
Deederでは、AIを使って製品のエシカル度をスコアリングし、わかりやすく「見える化」しています。
幅広い価格帯の製品の中から、エシカル度や「エコパッケージ」などのエシカルな特徴といった条件を組み合わせて検索できるため、自分の価値観にぴったりの製品が簡単に見つかります。
ぜひ一度Deederを試してみて、エシカル消費に取り組むきっかけにしていただければ嬉しいです。
おわりに
この記事では、サーキュラーエコノミー(循環型経済)について解説し、その実現に向けた各国の具体的な取り組みについても紹介しました。
さらに、私たち個人レベルでもエシカル消費を実践することで、日常生活の中でサーキュラーエコノミーに貢献できることも確認しました。
この記事が、読者の皆様のお役に少しでも立てれば幸いです。最後までお読みくださり、ありがとうございました!